絣ラボを開設
日本の絣と世界の絣の美とその魅力をご紹介するサイト、「絣ラボ」を開設いたしました。日本の絣の歴史は古く、貴族や武士などの上層階級の着衣に使われてきました。江戸時代以降は木綿や麻素材による庶民の日常着としても広く重用されてきましたが、今ではある種の郷愁を誘う、いささか遠い 存在になっています。しかし絣には、グローバル化と複雑化が進む一方の現代を生きるわたしたちに、様々な思考のヒント与えてくれる魅力と謎に満ちています。絣のもつ謎を秘めたその魅力をお伝えしたいと、本サイトを開設しました。
絣はまだらに染めた糸を織ることで、さまざまな文様を織り出す織物ですが、その文様は多種多様。ほぼ単色で、実に様々な図柄が織り出されています。その数は数えきれないほどですが、どの図柄もいくら見ていても飽きません。まだらに染めた糸だけで、よくもこれほど無尽蔵に異なった絣模様を織り出すことができるものだと、その創造性には心底驚かされます。数百年前の絣の図案集も現存しますが、今もなお新作が織られています。絣のもつ無尽蔵ともいえる創造性は、現代を生きるわたしたちにとっては思考のヒントの宝庫だとも思われますが、その創造性の秘密は、変幻自在、千変万化に織り出されてきた絣織そのものの中に立ち現れているはずです。
しかも絣はインドを起源に、東南アジア、日本、中国、中東、ヨーロッパ、アフリカと世界中に拡がったグローバルな織物。まさに、グローバル化が進む現代を語るにふさわしい織物ではないでしょうか。絣といえば、日本では古くから庶民の日常着として慣れ親しんできた織物ですが、素材は絹、紬、麻、木綿、芭蕉布などと実に様々。沖縄の芭蕉布のように、その土地固有の繊維も使われています。
素材も様々ですが、織り方も様々。絣糸を経糸(たていと)として使うか、緯糸(よこいと)として使うか、あるは経緯併せて使うかによって織り方が違うという。さらに経緯絣の中でも、経緯それぞれで個別の文様を織り出す方法と、経緯併せて一つの文様を織り出す方法の、4種があるという。日本ではこの4種の織り方が使われていますが、織り方と絣糸の染め方の工夫で、無尽蔵に文様が織り出されてくるわけです。絣糸は、糸をまだらに染め分けるために、糸の一部を括って色がつかないように防染するところに最大の特徴と基本形があります。
「ikat(イカット)」とは、絣を意味する世界共通の染織用語ですが、その語源はマレー語の「括る(くくる)」「縛る」を意味する「mengikat」に由来するという。糸を括るという絣の基本形が、「ikat」という語で表されているわけです。ただ絣糸の作り方には、糸を括る以外にもにも様々な手法があり、日本では世界最多だといわれるほどの、多種多様な絣糸の手法が編み出されています。織り方でも、経緯絣は絣の起源といわれているインドと日本だけで織られており、あとはインドネシアのバリ島にあるテンガナン唯一村だけだという。 (参照:「絣とikat」)
日本は古代の大昔から、海外から移入した文化を様々に工夫を凝らして日本流にアレンジしてきましたが、絣でも同様に創意工夫を凝らし、日本流の絣を生み出し、継承、発展させてきました。日本の絣はインドや東南アジアを起源とするグローバル性を帯びつつも、日本的な特性をもった多種多様な絣が日本各地で生み出されてきました。その日本の絣に世界が注目し、かつては「絣王国」とまで呼ばれた時期もあったという。現在では着物を着なくなったこともあり、絣の需要も激減。規模としては「王国」にはほど遠い状況にあるとはいえ、絣のもつ無尽蔵の創造性は未来永劫、生き続けることはいうまでもないでしょう。
「絣ラボ」では、こうした「絣・kasuri・ikat」のもつ美と魅力を発信していきます。久留米絣(福岡県)、伊予絣(愛媛県)、備後絣(広島県)が日本三大絣といわれていますが、これらはいずれも木綿絣。木綿以外では、麻絣の越後上布(新潟県)・小千谷縮(新潟県)、紬絣の大島紬(鹿児島県)・結城紬(茨城県・栃木県)などが、絣の範疇を超えた固有の織物として有名ですが、他にも日本各地には、その地の名を冠した、様々な素材を使った数多くの絣が織られています。
ここで忘れてはならないのは琉球絣(沖縄県)です。東南アジアから琉球に伝わった絣が、日本本土にも伝わったといわれていますが、琉球では王宮でも絣が着用されたこともあり、日本本土とは違った華やかさや高級感の漂う絣が織られています。麻絣では宮古上布がよく知られています。
ざっと概観しただけでも、日本各地で多種多様な絣が織られてきたことに、今さらながら驚かされますが、世界に目を向けると、絣の多様性は無限大にまで拡がりそうです。絣ラボでは、日本各地で織られてきた多種多様な絣の数々と、世界各地の多種多様な絣の魅力の数々を、主としてビジュアルを通して、日本国内のみならず世界にも発信していきたいとの、大きな夢を抱いています。
さらには日本国内で「日本絣サミット」、世界規模での「世界絣サミット」を開催したいと、壮大な夢も抱いています。世界に向けた発信や「絣サミット」の開催はすぐには実現は難しいですが、まずは地元福岡の久留米絣の魅力の数々を、素人カメラマンのわたしが撮影した写真を使って、数回に分けてお伝えすることにいたします。素材が入手できなければ更新はできませんので、更新は不定期といたしますが、なるべく更新頻度を上げたいと思っています。一人でも多くの方にご覧いただけますよう、心から願っております。
2019年4月10日 絣ラボ 久本福子
*段落冒頭の一字下げ廃止について 日本語表記では、段落の切れ目を明示するために、段落の始まりは一字下げる決まりになっておりますので、本サイトでも当初は段落の頭では一字下げておりました。しかし文字面全体が凸凹して、見た目の不整合さがどうにも気になりして、一字下げを止めて、頭を全て揃えました。WEBでの長文は、段落ごとに一行開けないと非常に読みづらいので、一行開けは必須です。この一行開けに一字下げが加わりますと、文字面の凸凹感がさらに強まります。一行開けが段落の切れ目を示していますので、機能的には一字下げは不要だとも思われますので、一字下げは廃止することにいたしました。